研究員紹介
仙田 幸子(教養学部人間科学科)
女性労働と少子化との関わり




これまでの研究

 私は研究所や大学の間で何回かの転職を経験しており、その時その時の状況で、自分の立場でするべき、また遂行可能な研究を積み重ねてきた。

 私が修了したのは社会学である。しかし、私が最初に勤めたのは、人口学の研究所だった。人口学は社会の動きを理解するにも、政策を考えるにも不可欠の学問だが、意外なことに、専門的に研究している人はとても少ない。最初はなれない学問領域の話についていくのが精一杯だったが、人口学の先端の知識に触れることができた研究所での経験は、私の研究・教育生活を支えるベースのひとつとなっている。

(せんだ ゆきこ)
1989年 横浜雙葉高校卒業
1993年 慶應義塾大学卒業
2008年 東北学院大学教養学部 准教授
 そのあと、今度は大学で経営学を教えることになった。経営学は、企業の行動を研究する領域であるが、そのなかに、人材をどのように育てて活用するかという「人的資源管理論」という分野がある。また、複数の企業を転職で移動したり自営業になったりすることをふくめて、個人が職業的なキャリアをどのように形成していくかをとらえる「キャリア発達論」というのも、経営学と重なる部分が大きい。このような分野に学びながら、女性のいわゆる「一般職」事務職員のキャリアや技能形成や仕事と家庭の両立についてのインタビューや質問紙調査を蓄積してきた。

 さらにそのあとは、別の大学で、キャリア教育の担当となった。少し前まで学生の卒業後の生活のクオリティは、大学が関与するところではなかったが、現在は、学生が卒業後にどのような人生を歩んでいくのか、そのために大学でなにを学ぶべきか、ということを大学として検討するようになっている。学生にそのための知識を提供する授業を開講している大学も多い。ある大学で、新規に大学としてキャリア教育を提供するに当たり、主軸となる科目の担当教員となったのである。試行錯誤であったが、キャリア教育の効果測定をして、効果があることを確認した時には大きな喜びがあった。

 よく、卒業してすぐ就職するために学生の就職活動を指導するのが「キャリア教育」だと思 っている人が多いが、実際には、人生全体をどのようにデザインしていくかを考えるのが、キ ャリア教育である。キャリア教育に対応する学問は非常に多い。大学のどの学部の内容が職場ではどういう職業や状況に対応するか、といった個別的な知識はもちろん、どの学部にいても、法律や経済の知識が、社会の仕組みについての全体的な理解として必要になる。人生の選択は個人の価値観によっておこなわれるから、哲学や倫理学も必要である。

 そのような経験を経て、本学では「社会学」を担当している。ずいぶん回り道をしたような気もする。ただ、それが無駄だったかというと、そうでもないと思う。社会学というのは社会の全体をあつかう学問であり、たとえ特定の対象だけをあつかう研究をする場合であっても、社会のいろいろな仕組みを総合的に考察することが求められる。そうした学問を追及するうえで、さまざまな領域をわたりあるいてきた経験にたすけられたことは何度もある。むしろ、そのような雑多な知識が今の私の研究スタイルを形作 ってきたといっても過言ではない。キャリア発達論の用語では、偶然の出来事を生かしながら職業経験を積み重ねていくことを「キャリア・ドリフト」と呼ぶが、結果として、まさにそれを実践してきたような道のりである。

今後の研究の目標

 人口の変動というマクロな現象と、特定のコーホートの個々人が経験していく人生というミクロな現象を重ね合わせて、社会の変動を記述したいと考えている。端的に言うと、人口学とライフコース論の接合である。

 具体的には1960年代生まれの女性に焦点をあてて、教育・労働・家族に関する彼らの経験と、それがこの人々の出生行動にどう影響してきたかを研究対象としている。1960年代生まれの人々というのは、高度成長期の出生、急激な「ふたりっ子」化、母親の専業主婦化、成人期のバブル景気とその崩壊、という特徴のある時代経験をしてきた。現在では40代後半から50代前半になっているが、この世代は、その前の世代にくらべて、生涯の出生数(完結出生力)が大きく下がり、また出産の時期が大きく後に移動したという点で、人口学的な観点からも特徴のある世代である。ある意味では大学院以来、興味を持ってやってきたことの集大成であり、日本における女性の生き方がどのように変わってきたのかをおいかけていきたいと思っている。

 具体的な研究としては、まず、妊娠や出産に関する医学的な知識に注目して、出産年齢の高齢化が進んだことの効果を分析したい。現代社会では、高齢化や高学歴化が進み、標準的な人生のスケジュールが引き伸ばされる傾向にある。しかし、医療技術の発達にもかかわらず、妊娠や出産に関する生物的な限界はさほど伸びていない。このため、出産が「先延ばし」されると、不妊や高リスク妊娠の問題が深刻になってくる。日本では、このような医学的な見地を利用した出生行動の研究はほとんど行われてこなかったため、まずはこの問題に関する正確な知見を蓄積していきたい。

 さらに、出産が「先延ばし」されるのは、個人の人生をどのように築いていくのかという問題であり、広義の「キャリア」の問題である。人々は、周囲の他人や組織など様々な社会的環境と相互作用しながら自分自身の人生を歩いていくのであり、その中に、結婚・妊娠・出産といった出来事が位置付けられる。現代日本のように個人の選択が重視される社会では、本人がどのようにして自分の人生を決めていくかが重要である。特に、女性の人生に関しては、この50年ほどの間に、思想という点でも、制度という点でも非常に大きな変動があった。時代によるこのような変動を受けて、女性たちはどのように個々人の生き方を選択してきた(または選択できなかった)のかを、統計的なデータと、主観的なインタビューデータの両者を活用しながら明らかにしていきたい。

※ このページは、2015年3月刊行の『人間情報学研究 第20巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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