研究員紹介
黒須  憲(教養学部人間科学科)
武道文化の探求






 高校より弓道を始め、42年が経過しました。道一筋と言いますか飽きずによく続いてきたものだと思います。大学では体育学、武道論を専攻し地域に於ける弓術流派の研究をテーマとしました。現在もこれが私のライフワークといえるでしょう。弓術(現代は弓道)は日本の伝統的な運動文化です。弓矢は石器時代から狩猟の道具として用いられ、武器として、武士の教養として、または娯楽として発展してきました。現在は弓道競技として行われ多くの愛好者がいます。日本の長い歴史を通して、その時の時代背景や環境、要請に合わせて変化し、途絶える事なく伝えられてきました。弓矢の歴史を探ることは日本の歴史や文化を理解することになると言えるでしょう。


(くろす けん)

1975年 宮城県仙台第三高等学校卒業
1979年 筑波大学体育専門学群卒業
1994年 筑波大学修士課程体育研究科
    体育方法学専攻修了
1979年 東北学院大学教養部 助手
1985年   同    講師
1988年   同    助授
1989年 東北学院大学教養学部 助教授
2007年   同    准教授
2012年   同    教授
弓術文化の研究

 弓術関連の文献は他の武術と比較して非常に多く、奈良、平安時代のものから鎌倉、室町時代、江戸時代には多くの弓術書が出版され、中国や韓国の書物も沢山紹介されてきました。知識人が多かったと言えますが。それらの内容は多岐にわたり儀式の方法、思想、道具の解説書、技術書、故実書など様々です。本学図書館にも私が赴任当時より購入してきた弓術関連図書があり、現在その蔵書数は日本有数だと言えます。巻子本、折本、和綴本、刊行本、現代書等様々で、多くが貴重書で流祖の直筆本や全国で数冊しか確認されていないものもあります。これらの資料を整理し、正しく理解してまとめる事が私の仕事だと思っています。また、世間には公表されていないもの、個人で死蔵されているもの、全く整理されていないものなど沢山あり、それらを調査発掘し保存していくのも役目だと考えています。一度廃れてしまった文化は復活が難しく、かなりの努力が必用だと言えるでしょう。

弓道の国際普及

 大学時代、東京教育大学教授弓道範士、稲垣源四郎先生より弓術流派「日置流印西派」を学びました。欧州弓道セミナーの助手として同行させていただき、欧州弓道連盟の設立にも立ち会うことができました。師匠が亡くなった後、他の先輩方と共に弓道セミナーの講師として招聘され、毎夏、時には春も、欧州で弓道の指導をおこなっています。既に20年以上になり、現在は欧州各国、ドイツ、イタリア、フィンランド、ハンガリー、オーストリア、デンマークなどでセミナーが開催されています。今年もドイツRottweilでリーダーセミナーとオープンセミナー、Dresdenでオープンセミナーの合計5回のセミナーを開催し、150名以上の欧州人を指導してきました。技術指導、理論の講義、道具の修理など、食事会や談話会では親交を深め日本文化の紹介と国際親善、武道のグローバル化に貢献してきたと思っています。

 体育学の分野でも武道の研究者は少なく弓道はさらに少数です。先端技術でも健康福祉分野でも、オリンピックゲームや国際スポーツの競技力強化でもなく、世の中ではあまり必用とされない分野です。カビの生えた重箱の隅を突く様な研究で、補助金の対象にすら難しい領域です。しかし、武道を知ることは自国文化の再確認にもつながります。海外指導の経験からも強くその事を感じ、改めて日本人のアイデンティティー形成に重要な役割を担っているのだと感じます。弓道の研究から自国の文化を正しく理解し、それを海外に発信することが私の役割だと思っています。

※ このページは、2015年3月刊行の『人間情報学研究 第20巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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