研究員紹介
宮本 直規(教養学部言語文化学科)
フランス語学



 「専門は何なの?」と聞かれると最近はシドロモドロになる。少し前までは、小さい声で「フランス語学です」と答えられていたが、この2年の間にますます声が小さくなって、今はもう蚊にだって呆れられるほどのつぶやきになってしまった。教室ではフランス語を教えているので「なんでフランス語を始めたの?」とも聞かれる。これも随分前のことなので記憶があやしい。そのあやしい記憶を辿ってみる。

 もともとは理学部に籍を置いて、山や谷を徘徊して過ごしていた。徘徊していないときは本かマンガを読んでいた。因みに理学部に籍があることと山や谷を徘徊することには何の関係もない。そんなとき、何かの拍子にクリスティバの『セメイオチケ―記号の解体学』という本を手にした。しかしこれが今ひとつ分からない。嘘です、全くわかりませんでした。悔しいので『セメイオチケ―記号の生成論』にも手を出したが、やはり眠くなるだけだった。しかも固いので枕にもならない。そういう読書経験はそれまでにも幾度となくあったが、クリスティバには閉口し自分の無力さを棚にあげて「訳が悪い!」と結論することにした。そして原著を読めばきっと分かるに違いない、と根拠もなく思い込んだのがフランス語を始めたきっかけだったように思う。そういう意味では随分カッコつけ過ぎだが「クリスティバを分かりたかったから」ということになる。


宮本先生の写真
(みやもと なおき)
2010年 東北大学大学院文学研究科修了
2011年 東北学院大学教養学部 講師

 記号論的な興味からフランス語を始めたため、文学よりは言語学的な関心が強かった。言語学のどの入門書にも「言語を知ることは人間を知る事・・云々」と書いてあるが、人間への理解という点も魅力的だった。

 フランス語学というマイナーな分野で研究をはじめ、現在分詞を分析対象に選んだ。現在分詞の数ある用法の中でも、それほど多くは見られないマイナーな用法を何年もかけて分析しているうちに、重箱の隅をつつくような研究スタイルが体に馴染んでいった。そして気が付くと、記号論でもなく、ましてや「人間を知る事」とはかけ離れた場所に立っていた。

 自分の専門に確証がないのは、何となく始めて何となく馴染んでいったからなのかもしれない。未だ「セメイオチケ」の原著をひもといてもいない。初心は忘れやすい。


※ このページは、2014年3月刊行の『人間情報学研究 第19巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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