研究員紹介
栁澤 英明(教養学部地域構想学科)
数値シミュレーションによる津波挙動解析と津波防災への活用



 私は、津波被害の推計手法とマングローブ林を利用した津波防災対策の研究を行ってきました。

 津波は、数十年~数千年に1回の頻度で発生する低頻度の現象ではありますが、東日本大震災のように、一度発生すると多くの人的・物的被害を引き起こす巨大災害に発展する危険性があります。このような災害を繰り返さないためには、事前の被害予測と対策が不可欠となってきます。災害を引き起こす津波の物理現象を正確かつ、詳細に予測する手法の一つに、コンピュータによる数値シミュレーションがあります。近年のパソコンの高性能化に伴って、コンピュータシミュレーションによる津波挙動の再現性は飛躍的に進歩してきました。ここでは、津波の数値シミュレーションの手法とその活用方法について、私の研究と合わせて紹介します。

 津波の数値シミュレーションは、主に、「発生」、「伝播」、「陸上遡上」という3つの過程で行われます。それぞれについて以下に説明します。


柳澤先生の写真
(やなぎさわ ひであき)
2005年 茨城大学大学院理工学研究科博士前期課程 修了
2008年 東北大学工学研究科博士後期課程 修了 博士号(工学)取得
東北大学工学研究科 研究員
2009年 東電設計株式会社 技術系職員
2012年 東北学院大学教養学部 講師

1.津波の発生
 世界で発生する津波の 70%以上は、海底で発生した地震断層に起因したものです。地震断層による海底地盤の隆起・沈降によ って変動した海面が波となって陸へ伝播することで、津波が引き起こされます。地震が起因する津波の波源に対しては、地震断層による地盤の「くいちがい」を表現するモデルが用いられています。一般的には、 Manshina & Smylie (1971)や Okada et al.,(1985)によって提案された弾性理論を使って、断層による地殻変動を計算し、それが海面にそのまま伝わり津波の波源となるという仮定でモデル化が行われています。

2.津波の伝播
 地震の断層は、数百キロという広範囲に及ぶため、津波の波長は、水深と比較して非常に長く、“長波”という現象になります。長波となると、鉛直方向の水粒子加速度が非常に小さく無視できるようになり、現象が単純化されます。一般的に、広範囲での解析を必要とする津波シミュレーションでは、流体の基礎式(連続方程式、運動方程式)を長波近似し、現象を単純化して実施します。

3.陸上遡上
 津波の遡上解析では、市街地や森林、建物など土地利用分類に応じて、流体に対する抵抗(摩擦抵抗則)を与えることで、浸水予測精度を向上させます。

 私の博士論文研究では、マングローブ林が存在した場合の津波減衰効果に着目し、マングローブ林の摩擦抵抗則に関する研究に取り組みました。

 マングローブ林は津波に対し抵抗体となる一方で、津波の流体力によって倒木し、その効果を完全に失う可能性もあります。そのため、マングローブ林の抵抗則をモデル化するためには、津波によって樹木が倒木する現象を明らかにする必要があります。しかしながら、津波に対する樹木の耐力は、材料特性や流体の局所的流動条件などに応じて変化する不確実な現象であり、単純にモデル化をすることはできません。そこで、我々は実際の現場から、データを集め確率論的な議論からモデル化を試みました。

 私が博士課程に進んだ前年(2004 年)の12 月に、インドネシア・スマトラ島沖北部を震源としてマグニチュード9の地震が発生し、その地震に伴って巨大津波がインド洋で発生しました。我々はこのインド洋の大津波によって被害を受けたマングローブ林を対象に、タイやインドネシアで、津波被害調査を実施しました。この調査では、 1000 本以上の樹木の被害を測定することで、倒木率と流体力の関連性を明らかとしました。その結果に基づいて、被害を定量化するための被害関数を作成し、数値シミ ュレーションに組み込むことで、樹木の倒木と抵抗則を考慮したシミュレーションモデルの開発を行いました。そのモデルを用いて、2004 年インド洋大津波に対するマングローブ林の津波減衰効果の検証を行なった結果、津波で 7 万人以上の死者・行方不明者を出したインドネシア・バンダアチチェで約 1km の森が沿岸に存在していれば、人的被害を半分に減らすことができるという結果を得ることができました。

 現在は、東日本大震災を対象とし、仙台市若林区を中心に、津波浸水深や家屋の被害調査・分析を行っています。また、東北地方太平洋沖地震津波の数値シミュレーシ ョンを行い、津波の伝播・遡上特性を検討するとともに、防波堤や盛土などの有効性についても検証しています。今後は、東日本大震災を教訓とした津波被害の推計手法や瓦礫発生量の予測モデルの開発に関する研究を行っていきたいと思っています。また、津波シミュレーション技術の高度化とともに、防災教育などの活動にも貢献する研究を目指したいと考えています。


※ このページは、2013年3月刊行の『人間情報学研究 第18巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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