研究員紹介
大澤 史伸(教養学部地域構想学科)
私の人生を変えた数々の出会い



 私は、高校時代に北海道で牧場主になることを夢見て、北海道の大学に進学をしました。しかし、進学後は、剣道部とアルバイトに精を出し、勉強は中途半端、そして、大学2年にはクラブもやめてしまいました。

 何もすることがなくなり、ぶらぶらしていたところ、ガールフレンドにさそわれて、銀山学園という知的障害者の施設でボランティア活動をすることになりました。それが私と福祉との出会いでした。福祉が好きだったのか、ガールフレンドが好きだったのかはよく分かりませんが、とにかく熱心にボランティア活動をしに銀山学園に行っていました。将来は、何となく福祉関係の仕事につけたらなどと勝手に考えていました。

 大学 4 年時には、特に就職活動をすることなくあれこれ「自分は何に向いているのか?」などと考えていましたが、結論など早々出ることもなく、研究室の教授のいわれるままに農林水産省の外郭団体に就職をしました。


 勤務地は大阪市住之江区の大阪市食肉市場で牛・豚肉の格付業務を行っていました。来る日も来る日も牛・豚肉の格付けを行い、勤務後はほぼ毎日のように農業団体や食肉会社から接待を受けていました。そんな日常生活から逃げ出したくて、大学時代に行っていたキリスト教会の牧師先生から大阪市西成区にある喜望の家という施設を紹介してもらいました。

 喜望の家は、大阪市西成区のいわゆる「あいりん地区」とか「釜ヶ崎」といわれる所にありました。東京の山谷、神奈川の寿町と合わせて日本三大ドヤ街といわれている場所です。喜望の家では、アルコール依存症の方たちのケアをしたり、冬季には、デイパトロールといって路上生活者に毛布や食事を配ったり、病院に連れて行くなどの活動をしていました。

大澤先生の写真
(おおさわ しのぶ)
1984年 正則高等学校卒業(東京都港区)
1988年 酪農学園大学酪農学部酪農学科卒業
1997年 専修大学大学院文学研究科修了
2010年 博士(農学):酪農学園大学
知的障害児施設 国立秩父学園(現・国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局秩父学園)厚生教官を経て、大学教員へ。
1997年 東海大学健康科学部助手
2001年 聖隷クリストファー看護大学専任講師
2002年 聖隷クリストファー大学社会福祉学部専任講師
2010年 名古屋学院大学スポーツ健康学部准教授
2011年 東北学院大学教養学部地域構想学科准教授として現在に至る。

 私は、日中は食肉の格付をし、夜はできるだけ接待を断り、喜望の家での活動に参加をしました。そんなある日、あの事件は起こりました!ある1 人の路上生活者が具合を悪くし、救急車を呼ぶも、乗車拒否をされてしまい、死んでしまったのです。

 私をはじめその場にいた人たちは全員ショックを受けたのは言うまでもありません。私が小学生の時に読んだ教科書には「人の命は地球より重い」とイラスト入りで書かれていたのを覚えています。私の出会ったホームレスのオッチ ャンの死は、新聞、テレビ、雑誌等でほとんど報道されることもなく、また、誰からも悲しまれることなく、ひっそりとピリオドが打たれてしまうという現実に向き合い、私は無性に悲しく、そして、誰にぶつけたらいいのか分からない怒りで一杯でした。

 その後、仕事を辞め、社会福祉の現場に出ます。厚生省(現・厚生労働省)児童家庭局障害福祉課所属の国立秩父学園の厚生教官を経て、専修大学大学院文学研究科社会学専攻で宇都榮子教授の下で「社会福祉学」を学びました。宇都榮子教授はもちろんのこと、「村落社会学」の米地實教授、「社会政策学」の加藤祐二教授には公私にわたって大変、お世話になりました。修士論文のテーマは、「横浜市寿町の現状と今後の福祉対策」でした。

 大学院修士 2 年の 11 月に修士論文のテーマを日本社会福祉学会で発表したところ、発表後、最前列に座っていた白髪の女性が私の所に来て、開口一番、「あなたはこれからどうするの?」と聞いてきました。私は、「特にすることが決まっていません。でも、自分は大学時代に洗礼を受けているので、ドヤ街に行ってキリスト教の伝道でもしようかと思います。そして、何かの役に立ちたいと考えています。」と自分の夢を熱く語ったところ、その女性は大笑いをして、「あなたは本当に変わっているわね。まあまあ、あなたは、賀川豊彦(世界的に著名なキリスト教伝道者)になるには、まだ早いから、もし、良ければ私のいる大学で助手を募集しているから受けてみない。」

 元来、計画性がなく、人に影響を受けることが得意な私はその女性の言う通り、東海大学健康科学部助手の試験を受けて大学の教員になったのでした。早いもので大学教員になって今年で16年目を迎えます。

 現在、私は、「農業分野における障害者の就労支援」について研究をしています。具体的には、 NPO(非営利組織)を中間支援組織として「農業」と「福祉」を結び付け、障害者の就労支援を推進できるようなシステムを構築するには?というテーマを追求しています。

 私のこれまでの人生を振り返るといろいろな出会いがありました。その時には必ずしも分からないけど、いつか振り返って見た時に、それらは点と点が線でつながるように全ては関係していて、かけがえのない存在であったことに気づかされます。

著書
1.『農業分野における知的障害者の雇用促進システムの構築と実践』(2009 (株)みらい)
2.『聖書のパワー物語−人生を変える 20 の秘訣』(2011 日本地域社会研究所)


※ このページは、2012年3月刊行の『人間情報学研究 第17巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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