研究員紹介
高野 岳彦(教養学部地域構想学科)
地域性が生まれ出る「際」を求めて



 親の転勤で北東北の多雪地帯の地方都市ばかりを転々とした。小4 から中 2 の間,在籍した学校は 5 つ(小 3,中 2)である。山ごとりんごの花に埋め尽くされる津軽の春,地平線まで広がる稲田と群青色の空にオニヤンマが飛びかう横手盆地の夏が思い出に残る。中 3 の 8 月,3つめ中学校として初めて南東北・太平洋側の大都会仙台に転入した。猛暑の横手盆地から冷雨の仙台へ,その気候の違いが印象的だった。

 地質学や古生物学に憬れて理学部地学系に入学したのに,学部進学時に「人文地理学」講座を選んでしまったのは,そうした体験の記憶があったためだった。「風土」とか「地域性」という茫漠とした超科学的テーマをいかに追及するというのか。客観的・分析的であることを旨とする理学部の中で異彩を放つこの分野におおいなる疑問を感じて,今思えば「怖いものみたさ」の衝動的選択であったともいえる。

 結局卒論では都市の居住パターンの計量析でお茶を濁し,卒業後,気仙沼に転居した。当時気仙沼は大型マグロ船 200 隻が根拠を置く世界一の遠洋マグロ基地。地先に広がる養殖いかだとともに,環境と生業に形づくられ人々の協調や競争によって育まれてきた地域に出会った。これが私にとっての「地域」との最初の実感的な出会いであったといえる。冒頭に記したことも,この経験を機に潜在していた記憶をふりかえって思うようになったものにほかならない。


高野先生の写真
(たかの たけひこ)
1956 年 秋田県本荘市生まれ
1978 年 東北大学理学部卒,宮城県高校教員
1985 年 東北大学理学部助手
1991 年 福島大学教育学部助教授
2002 年 同 教授
2004 年 東北学院大学文学部教授
2005 年 同 教養学部教授)

 一方で地域はこれほど明らかなものだけではない。その境界は隣接地域と連続していてあいまいな場合が普通だ。逆に急激な変化や社会問題を伴って自ら顕現する地域もまた多い。地域はまた,他者に照らして初めて明らかになる相対的な現象でもある。グローバル化の中で他地域との比較や連携・対抗が自地域認識を呼び起こす契機となる。行政の枠組みも無視できない。自治体合併は新しい地域の枠組みでのまとまり創出を住民に求める。地域の原点を現象学的考察に求めようとしたこともあった。――「地域」と「地域性」の生まれ出る際を求めて,そろそろゴールの仕方を考えるべき時と思っている。


※ このページは、2010年3月刊行の『人間情報学研究 第15巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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