研究員紹介
天野 和彦(教養学部地域構想学科専攻)
スポーツマネジメントとともに



【はじめに】

 東北学院大学に奉職してようやく一年が経った矢先に研究員紹介作成の依頼を頂きました。どうやら季刊教養学部に書いた内容とは違ったものにしなければならないので、研究職につけた過程を振り返ってみたいと思います。

【スポーツマネジメントとの出会い】

 略歴からは、「(学部で)法律を学びました」と言えるほどのことは何もありません。なんとなく社会の仕組みに触れ、あわよくば活用したいという程度の動機で学部選択をしたというだけです。ただ、よく地域構想学科の同僚の先生から「先生は地域に馴染んでいて羨ましいなぁ」という凡そ有難いお言葉をかけていただくのですが、これは私が中学時代に地歴部だったからではなく、おそらくこのような人文社会科学分野を根っこに持っているからだと思われます。

天野先生の写真
(あまの かずひこ)
1988年 同志社大学法学部法律学科 卒業
1995年 筑波大学大学院(体育学修士)修了
2003年 中京大学大学院(博士)単位取得退学
2009年 東北学院大学教養学部 准教授
 そんな私が、大学時代の恩師に勧められるがまま筑波大学大学院体育研究科の門を叩いたのは、自らのスポーツ実践に行き詰まり、スポーツとの関わりについて考えることに興味を抱いたからです。まさに「なんとなくクリスタル」な時代だったことを覚えています。大学院専攻主任の先生に「君はここの研究室があっているので、ここに行きなさい」と言われスポーツ法学の研究室ではなく、何故かスポーツ経営の研究室(当時は体育経営管理学と呼ばれていました)に籍を置くことになったことを今でも鮮明に覚えています。これが、スポーツの現象を組織的に捉えるスポーツマネジメントとの出会いでした。

 専修免許を取得し母校の高校教員として部活動の指導をしようと考えていた私は、研究職を勧める指導教官によって更なる紆余曲折の人生を辿ることとなります。大学設置基準大綱化によって体育実技の必修が外され、体育科学を専攻する研究者は桐の葉といえども就職難の時代へ突入しました。

 周りに数多いた優れた研究者の卵たちが、研究職につくのを断念していくなか、辛うじて名古屋と山口の大学を経て私のようなものが研究者としてあるのは、個人としてはとても幸運なことであり、さりとて学問的には大変不幸なことだと思っています。

【スポーツマネジメントと興味関心について】


 そんな私がスポーツを学んだ時代から考えても、現在のスポーツを取り巻く環境は急速に変化をしています。端的にいえば、合理化や効率化、とくに商業化が急激に進んでいるように感じます。また、個人としてのスポーツ活動はある程度盛んに行われていますが、集団的で相互的な教育的活動としてのスポーツの意味合いは薄れているように感じるのです。

 スポーツマネジメントの現場は、その対象の多様性から幅広く存在し、且つ専門性を求める声も少なくありません。学校におけるスポーツ活動、つまり中学校や高等学校などで行われている部活動であれば、教育的活動の範疇において成員としての部員の満足度、あるいは成果としての競技成績をどのようにして求めていくかをマネジメントするかが大切です。過度の勝利至上主義や暴力、あるいはセクシャルハラスメントといった問題が顕在化することはありますが、マネジメントとしては主体と客体がはっきりしており、教育活動という限られた範疇の中で、その目的も明確に把握することができます。

 一方で少しやっかいなのが地域におけるスポーツ活動を対象にする場合です。そのなかには、行政や公的団体のスポーツ組織だけでなく、市民のスポーツ愛好家や民間事業者の活動も含まれます。そして、それぞれが健康や教育的な価値、あるいは経済的な利潤を求め、主体と客体に分かれ、時には主体と客体が重なって組織的活動を営んでいます。それらは本来事業別に分類され、異なった文脈で語られるべきものなのですが、地域におけるスポーツマネジメントとしてゆるやかに括られているのです。

 私の研究対象でもある行政組織においても、近年は効率化が重視され、市場化が導入されたことで事業の方向性が揺れ動いている部分が見受けられます。例えば公共スポーツ施設の管理運営組織も、これまでの行政組織から非営利団体や民間事業者に至るまで様々な性格の組織がよる管理運営を行っています。そして、地域においては準公共財として扱われてきたスポーツは、効率化が図られるとともにより私的財として捉えられていると感じるのです。

 近年スポーツマネジメントの学問領域は、その実践性に重きをおく分野であるがゆえに、様々な現場の経験者がその知見をもとに理論を構築したり、提言したりすることで混沌としている感があります。私には、それらを総括することは到底できませんが、先ほど述べた地域スポーツを取り巻く環境の変化を、公共財としてのスポーツとして捉えなおすことを片隅にいれ研究を行っています。

 【最後に】

 私が赴任するにあたって、ある先輩から「いいところに就職が決まったね、がんばりなさい」と言われました。この言葉は、大学の規模や経済的基盤を指しているのではありません。ひとつは、仙台市あるいは宮城県には研究対象として様々なスポーツ活動と組織があることを指摘されていることです。もうひとつは、私の研究が隣接諸科学の知見を援用するがゆえに、体育学専攻ではない分野に触れる機会を持てることを指しているのです。諸先生との触れ合いを大切にしながら、気持ちを新たに学生と互いに学んでいきたいと思っています。どうかよろしくお願いします。


※ このページは、2010年3月刊行の『人間情報学研究 第15巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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