研究員紹介
高橋 信二(教養学部地域構想学科)
実験と実践



【身体活動とは?】

 現在,私が取り組んでいる研究テーマは身体活動量の測定と健康の因果関係を量的に明らかにすることです.身体活動は,筋肉(主に,骨格筋)の収縮により引き起こされるすべての活動を含んでいる言葉です.一般的には「運動」という言葉で表現されますが,健康科学の分野において身体活動は,生活活動と運動に分類されます.生活活動とは,日常生活の中で起こる様々な活動(家事,通学・出勤,余暇活動など)による身体活動を意味します.運動とは,健康の維持増進や体力向上などの目的を有し,構造的で,反復性のある身体活動であると定義されています.数年前までは,「健康のために運動をしよう!」と言われていましたが,最近では生活活動を高めることによっても健康利益が得られることから,「健康のために身体活動を高めよう!」というように変わってきました.

 身体活動と健康間の因果関係は,定性的なものではなく,定量的な関係であることが知られています.つまり,身体活動をすれば健康・しなければ不健康,という関係ではなく,これくらい身体活動量を確保すれば,これくらい健康になる,という量反応関係にあります.そのため,個人が健康の維持増進に努めるためには身体活動量を正確に測定することが必要となります.身体活動量の測定単位は測定方法の発達に伴い変化していますが,基本的に,総エネルギ ー消費量(kcal),位時間当たりのエネルギー消費量(kcal/min)あるいは運動の強度を示す酸素摂取量(ml/kg/min,METs)により測定されます.2006 年より厚生労働省は,エクササイズ(METs・時/週)という測定単位を用いて身体活動を定義し,目標値として23 METs・時/週を示しています.

高橋信二先生の写真
(たかはし しんじ)
1994年 岩手県立黒沢尻北高等学校卒業
1998年 東北学院大学卒業
1999年 筑波大学研究生修了
2001年 筑波大学大学院修士課程修了
2004年 筑波大学大学院博士課程修了 博士号(体育科学)取得
2004年 筑波大学院大学院 研究員
2005年 東北学院大学教養学部 講師
2007年 同 准教授
【身体活動量の測定】

 身体活動量の測定方法は多様です.高精度なものでは,二重標識水という方法や呼吸代謝分析装置を使った方法などがありますが,これらの方法はコストの問題や負担の大きさから頻繁に使用される方法ではありません.最も簡便性の高い身体活動量の測定方法は歩数計です.近年では,加速度センサを内蔵した歩数計が数多く開発され,日常生活や多くの研究場面で用いられるようになってきました.それの歩数計は,ある条件を仮定した場合,高精度の測定方法(二重標識水や呼吸代謝分析装置)に対して高い妥当性を示すことが報告されています.一定の条件とは,ある身体活動を行った時,生体が運動に見合ったエネルギーを即座に供給するというものです.しかしながら,現実には生体の反応には若干の時間的遅れが存在するため,断続的に活動を行う場合には系統的な誤差が含まれてしまいます.

【研究テーマ】

 私の研究テーマは,歩数計による身体活動量の測定において生体の時間的遅れを考慮したモデルを構築し,いかなる場面においても精度の高い測定方法を開発することです.


 このテーマは,2003 年より取り組み始めました.最初の数年間は,様々な外乱要因を統制した環境(実験室)で,データ収集を行い,測定方法の開発とその精度検証を行いました.2005年頃までに,国内外の学会で発表し,ある一定の評価を得ることが出来ました.その成果を受けて,2007 年からは実際の日常生活に,開発した測定方法により測定した身体活動量と体組成(筋量と脂肪量)や血液成分(中性脂肪やコレステロール値)などの関係性を検討する段階に移ってきました. 現在,泉区在住の中高齢者の方の協力を得て,データを収集している段階です.

【実験と実践】

 一般の中高齢者の方は,運動教室を通じて,研究へ参加してくれています.私は運動教室を通じてデータを収集し,参加者の皆さんには運動教室により健康の維持増進,という関係にあります.研究データには信頼性,特に客観性があることが科学の前提です.すなわち,誰が収集したデータであっても,同様の方法を用いれば同じ結果が得られるというデータでなければなりません.そのため,出来るだけ研究計画以外の外乱要因が測定データに影響しない方が良好なデータということになります.しかし,実際に運動教室を行っていると,何とか参加者の方の健康状態を良好にしたい,もっと何かしてあげたい,という気持ちが生じてきます.研究者としては良くないことですが...

 そのように対応することにより,当然のように参加者の方とも親しくなります.そうなってくると,
「先生のために,頑張って痩せなくちゃ!」
「先生に言われたから,運動教室以外でも歩くようにしてるよ」
などということが多くなって来ます.このような参加者の行動変容は研究的には間違いない外乱要因でし,データの客観性の確保にも失敗してしまっている状況です.一方で,健康づくりの実践家としては,これ以上に嬉しいことはありません.

 多くの人の健康に役に立つ研究をするために,良質なデータを収集することは必要です.本来は,参加者の人ともある一定の距離を置いた関係を築くことが必要かもしれません.しかし,その様な関係では,良い教室を運営していくことは困難.研究としてのデータ収集(実験)と運動教室(実践)の両立が今後の課題です.


※ このページは、2009年3月刊行の『人間情報学研究 第14巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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