研究員紹介
高橋 直彦(教養学部言語文化学科)
ひな形(照合)方式



 私の専門は音韻論と呼ばれる分野で、言語学の中でも言語音を研究対象とする分野です。同じく言語音を対象とするものに音声学という分野もありますが、音声学の方が一般には知られているでしょう。音声学と音韻論との関係に関しては、根本的な点で学者間で見解が異なります。よく知られた立場では、音声学が普遍的な観点から言語音の産出や知覚に関するメカニズム一般を解明しようとするのに対し、音韻論は個別言語に分け入り当該言語の音体系を解明することを職能とする、とされます。しかし、私見は異なります。音声学も音韻論も普遍・個別双方に関わるが、研究対象の抽象度が異なるー音声学は実現形(に近い)レベルの現象を対象とし、音韻論は抽象的なレベルの「現象」を対象とするーと考える立場です。

 音韻論と一口に言っても、コトバに対してどのようなアプローチを採択するかによって様相が異なりますが、私は基本的に生成文法の一研究部門である生成音韻論という枠組に立脚しています。ただし、少々異端で、生成文法の掲げる目標そのものは尊重しつつも、具体的な研究の姿勢は主流とは異なります。「総論賛成、各論反対」といったところです(事大主義に陥らぬためにも必要なスタンスと考えます)。具体的には、1988年に「ひな形(照合)方式」という枠組を提唱して以来、これに依拠しつつ音韻研究を行っています。これは、構造主義・生成文法双方の難点を回避し、利点を活かす枠組です。(次頁「英語の複数形」に対する説明の違い参照。「日本語の動詞の活用」のムービーhttp://raspberries.jp/kaku.htmlも参照。)ときに、構造主義を悪者に見立てて、生成文法という正義の味方がこれを成敗した、といった勧善懲悪風史観に立つ向きもありますが、単純化し過ぎでしょう。また、「ひな形(照合)」という言葉で往年のパターン・プラクティスに象徴される単純な「型への当て嵌め」を想起する人もいますが、浅薄な誤解です。加えて、個人的には、パターン・プラクティスとて、外国語習得上の必要悪・乗り越えるべき関所で、蔑視するのは習得後でも遅くはない、と考えます。ただ、私個人の専門はあくまで外国語教育ではなく、基礎研究としての言語学です。



高橋直彦先生の写真
(たかはし なおひこ)
1987年 東北学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学
1987年 東北学院大学教養部助手 現在、教養学部准教授



↑上の3方式を別の観点から図式化するなら以下のようになります。↓



※ このページは、2009年3月刊行の『人間情報学研究 第14巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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