研究員紹介
鈴木 宏哉(教養学部人間科学科)
運動・スポーツを計量する研究のような活動



専門分野のこと:
研究紹介ということですが,研究活動の開始を大学院入学とすれば,僅か10年程度の研究活動期間しかありませんし,専門とする学問はスポーツ健康科学には違いありませんが,その中でも,能動的に,ときには受動的に,多種多様なテーマに取り組んできたお陰で,未だに私がどこへ向かっているのか分かりません.所属学会が専門性の現れであるならば,体育(日本体育学会),体育測定評価(日本体育測定評価学会),発育発達(日本発育発達学会),体力(日本体力医学会),学校保健(日本学校保健学会),サッカー(日本フットボール学会),行動計量(日本行動計量学会),テスト(日本テスト学会)が専門であるということになりますが,やはりはっきりしません.今までに執筆した著書・論文のキーワードでいえば,サッカー,子ども,中高齢者,体力・運動能力,運動生活習慣,運動経験,テスト開発,多変量解析,実践的スポーツ統計,健康が研究テーマとなります.今年度(2008 年度)の社会的活動でいえば,子どもを対象とした全国体力・運動能力,運動習慣等調査に関する検討(データ分析),子どもの体力検定制度創設に向けた研究事業,J リーグ所属チームのゲーム分析サポートなどが主な活動でした.学外的仕事は依頼者から専門性の発揮を期待されている証しであるはずなので,他者評価でいえば,子どもの体力・運動能力,データ分析,サッカーの専門家ということになるのかもしれません.


鈴木先生の写真
Jヴィレッジでのサッカーのゲーム分析風景

(すずき こうや)
1995年 岩手県立水沢高等学校卒業
1999年 順天堂大学スポーツ健康科学部卒業
2001年 筑波大学大学院修士課程体育研究科スポーツ健康科学専攻修了
2005年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科体育科学専攻修了
2005年 東亜大学総合人間・文化学部 講師
2007年 東北学院大学教養学部 講師
2008年 東北学院大学教養学部 准教授
最近の興味・関心のひとつ:
私の博士論文のテ ーマでもあった「映像情報から個人や集団の能力を計量する」という観点は,研究活動をする上で常に頭の片隅においていることです.例えば,写真を撮られることに慣れていない人であれば,撮られると思うと緊張してしまい,普段の自然な表情は出せないはずです.サッカー競技で例えると,等間隔に設置したコーンをジグザグにドリブルすることはできるのに(ドリブルテストは得意なのに),試合になるとその能力を十分に発揮することができないということはよくあることです.すなわち,テストパフォーマンスから測定される能力と実際の場面で発揮される能力にはギャップがあるということです.運動パフォーマンステストでは,テストした段階で真に計りたい能力ではなく,テストをこなすことができる能力を測定することになってしまっていると思います.先の例で言えば,ドリブルテストが上手にできるようになっても試合中に発揮されるドリブルパフォーマンスが向上するとは限らないということです.真の能力を如何に計量するべきかという観点から,「映像情報を用いて能力を計量する」という発想に至りました.もちろん,真の能力をどのように捉えるか,そして能力を測定する目的は何かによって計量の仕方は変わってきます.誌面の都合上,このことに関する詳しい話は鈴木ほか(総合人間科学 6 巻,21−32 頁,2006)に譲ることにしますが,いずれにせよ,「図らずに計る(本人の意図しないところで計る)」ということは事象の自然な姿を計量するためのひとつの切り口であると思います.

意図的なテスト:
測定の目的によっては意図してテストを実施することが望ましい場合があります.2009 年1 月21 日に文部科学省が報道発表した平成 20 年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査の結果は,テレビや新聞に取り上げられ,多くの反響を呼びました.私自身もデータ分析班の委員としてこの調査に関わりましたが,メディア各社はこぞって学力テストの時と同じように都道府県別ランキングに紙面の大半を割きました.批判的な記事の中には,子どもの体力を順位付けすることで運動嫌いを助長する恐れがあると指摘するものもありました(1月22 日朝日新聞).しかし,文部科学省の非公表データによれば,この調査とは無関係に毎年体力テストを実施している学校の割合が多い都道府県ほど今回のテスト結果が良い傾向にある
ことが示唆されており,今回の調査結果が子ども達の真の体力を表現できているかは不明です.この意味では子どもの体力の現状を把握するという調査の目的を達成できているかは疑問です.一方,調査報告書には示されていない本来の目的と考えられることは,全国の児童生徒全員が体力テストを実施すること,実施を文部科学省が決定したことによって,それに関わる様々な人々の行動変容を狙い,これをきっかけに全国的な体力づくりムーブメントを起こすことであると思います.テスト成績を向上させるために,テスト本番前に何度も練習をさせた学校があるかもしれません.このテスト結果は慣れの影響が含まれた結果であるかもしれませんが,テスト実施そのものが体力づくりにつながるような要素を含んでいますし,体力テストには,元気な子どもを育むために必要な力を出し切るという要素を含んでいます.また,今回の結果を踏まえて,体力向上の取組を計画する学校があるかもしれません.いずれにしても,このテストの目的は子どもの真の体力を正確に測定することよりも,テスト実施に関わる人々(子ども,教師,保護者,教育委員会など)における正の行動変容にあると思います.このような場合,真の体力を把握することではなく,行動変容を期待して「図って計る(計ることを意識させて計る)」ことが必要となります.

最後に:
計量することには様々な問題点や方法論上の限界がある一方で,計量する方法と計量することで得られるデータには様々な影響力があります.それを踏まえた上で,どのような手段を用いることで,運動・スポーツに関わる事象の限りなく本質に近いものを見ることができるか,そして如何に計るべきかなどを今後も考えてみたいと思っています.


※ このページは、2009年3月刊行の『人間情報学研究 第14巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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