研究員紹介
渡部 敏
(教養学部教養学科情報科学専攻)
日本語シソーラスの進展



 前々から関心のあったシソーラスについて、 1997年から1998年にかけて、「日本語シソーラス」の作成構想をまとめ始めました。(東北学院大学論集[人間・言語・情報]、116、117、 119、東北学院時報1998年1月15日「私の研究」 参照)

 シソーラスというのは、「(知識などの)宝庫・宝典」という意味があります。言葉を全世界の森羅万象を表現するものとして系統的に分類し配列したものです。シソーラスの初めは、 イギリス人のロジェとしう科学者が英語につい て千項目の小分類に整理したもので、1982年に 第一版が刊行されました。英語世界で普及し現在はアメリカで国際版として何度も改定続行中です。また、ペーパーバックスの廉価版やポケ ット版などがコンビニなどでさえ入手できるほ ど利用されています。主に文章作成に使用され、 同じ内容のことをできるだけ異なった言い回し で表現することを追及するのに役立ちます。こ の面では、現代の日本語文章作成教育ではまだ まだ重視されていませんが、追々この豊な語彙 使用という文章作成の基本的かつ大事な条件が 必要になることと思います。また、適切な引用 句や慣用句などを見つけるのにも役に立ちます。 この間横綱を引退した貴乃花が、初々しく 横綱就任の時に「不惜身命」という言葉を使ってその覚悟の程を言い表しましたが、適切な言 葉はとても人を感動させるものです。このシソ ーラスの中には、「花づくし」とか、「虎づくし」 等というような関連のある事項などの種類名を 集めた表が用意されているので、それをヒント にして一文のエッセイを草することも可能です。クロスワードパズルのためには必携でしょう。

 日本でこれに該当するのは、類語辞典という形で存在しています。たとえば「和名聚鈔」や 「節用集」などの古辞書があります。戦後、国立国語研究所の「分類語彙表」(1959)が本格 的なものの始めでしたが、今では入手しがたく て普及しませんでした。次に発表された顕著な 辞典は、「角川類語新辞典」(1981)です。しか し、語数が五万語程度であり、英語のシソーラ スの三十五万語には遠く及びませんでした。
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(わたなべ さとし)
1955年 山形県立山形東高等学校卒業
1959年 東北大学理学部数学科卒業
1960年 東北大学大学院理学研究科数学専攻 中退
1960年 X日立製作所中央研究所研究員補採用
1967年 山形大学講師理学部数学科採用
1980年 京都大学国内研究員
1981年 東北歯科大学教授進学課程採用
1984年 京都大学理学博士授与
1987年 東北学院大学教授教養部採用
1988年 東北学院大学教養学部配置換
1989年〜1997年 泉情報処理センター主任
1997年〜2001年 教養学科情報科学専攻主任
2001年〜教養学部長・人間情報学研究所所長
語数が少ない理由の一つは、日本語で辞書という 限り、その語の意味や用例などが利用上必須と 考えられて付け加えるためではないかと思いま す。この語意表現を諦めて大きな語数を誇るも のが、NTTコミュニケーションズ編集の「日本語彙大系」(1997、全部横書き表示)です。こ れは、一般語が十二万語、固有名詞が二十万語、 専門用語が五万語、その他が三万語、合計四十万語というもので、英語のシソーラスの先ほど 述べた350,000語に比しても見劣りしません。 これは本来、日英語のコンピュータによる機械 翻訳のための辞書作りのために多大の労力と十年ほどの時間をかけて開発されました。だから、 本来人間用に開発されたものではありません。 しかし、このようなものは、人間が使用するためにも裨益するところ大であるとの斯界の権威 者の強い薦めによってこの辞書の形で世に出ま した。だだ何分書物としては大判であり、五冊 という大部なので持ち運びには不便でした。最近、1999年に、これがCDROM化して提供され ているので、コンピュータ上で使えるようになりました。

 2002年に、また画期的な辞書が講談社から発 表されました。柴田・山田による「類語大辞典」 です。語彙数は七万九千語。これも国語辞典を 兼ねており、語意が付け加わっています。分類 は百の大項目と約九百の小項目です。また目新 しいことには、全記載が国語辞典関係では少数 派である完全横書き組み版になっていることで す。したがって、分類番号と本文、必要なら英 数字表記が全て同一向きに組まれており、きわ めて自然かつ合理的です。

 これまで見てきたように、このシソーラスという分野に着目し始めた1997年から、六年ほどの時間経過の間に、この分野は大きな進展を見ました。1995年の段階で、野口由紀雄著「超勉強法」の一節で、「日本語には本格的なシソー ラスがないので、文章を書くときに実に困る。 英語のシソーラスを引いて日本語に直すときすらある。...」という記述がありました。このよ うな要求に答える着実な努力がなされてきていることがわかります。

 これまでのシソーラス関係の業績として、以下のことを挙げたいとおもいます。1933年に土居光知が「基本日本語」を発表しました。 Basic English の考え方を日本語に応用し、 使う単語を分類した試みでした。その後、日本語シソーラス作成の最初とみられるものとし て、1938年の垣内松三「基本語彙学」がありま すが、戦前の仕事であり、現在入手が困難です。 上で引用した国立国語研究所の「分類語彙表」 (1959)がそれに続くものでしょぅ。 今後の進むべき方向としては、日本語研究者 にも使えるような、グローバルスタンダードの 地位を占めているロジェの国際シソーラス方式 を採用することが大切ではないかとおもってお ります。即ち、第一に、分類はロジェ国際シソ ーラス方式を採用する。第二に、振り仮名を重視する。第三に単語の意味=語意は付けない。 第四に、語彙数は十万語以上を目指す。第六に、 恐らく起こるであろう日本語独特の語彙に関わ る特別な事項の処理を工夫して乗り切る。第七に、最後ですが、英語の表記を生かすことを考 える。

 これらの応用としては、小中学校の児童・生徒のための使いやすい版を用意して若いときか らシソーラスの使用に慣れてもらうことがあり ます。表現者として日本語による発信と受信の 能力の更なる向上を目指したいものです。

※ このページは、2003年3月刊行の『人間情報学研究 第8巻』に掲載された記事を元にしております。その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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