所員インタビュー
木戸 眞美 教授
人間の精神・気・身体の情報ネットワークを測定する 

Professor Kido Studies Networking Information-Flow in Human Body-Mind
インタビュワー・構成 吉田信彌


 今回から所員インタビューでは、中堅の所員にこれからの研究を語って頂く。2000年の日本は女性の活躍が目立った。女性教授は本学では珍しくないが、物理と化学の両方に通じている立場の木戸眞美先生を物理学研究室に訪ねたのはクリスマス祝会の直後であった。

Q:女性で、東大で理系だと、独特のリアクションというか、こういうインタビューでも、よく似たような聞かれ方がされるのではないかと思いますが、、、

木戸:下の学年からは女性が増えましたよ。

Q:子どもの頃から科学に興味があったのですか?

木戸:高校時代は理系のコースにはいましたが、外交官やピアノにといろいろ関心がありました。昭和44年にシドニー大学主催のプログラムで、「佐藤総理オーストラリア科学奨学生」という日本の高校生5人を科学の講義に招待する賞があり、それで科学の成果をのぞいたのがきっかけでしょうか。

Q:あの頃まだ高校生が海外に行くのは珍しいですし、日本はまだスポンサー側ではなく招待される側ですね。

(きど まみ)
1952年 盛岡に生まれる
1970年 東京大学理K類
1974年 東京大学理学部化学科卒業
1980年 東京大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)
1987年 東北学院大学教養学部助教授
現在、東北学院大学教養学部教授
木戸:全国から5人選ばれ、オーストラリアで世界の一流の科学者の話を聞くものでした。総理官邸で表彰され、私達のころは世界一周の旅行もつきました。バンコク・ローマを経てイギリスで5人の高校生と合流し、次にアメリカの学生10人と、ジョンソン大統領時代のホワイトハウスに招待になり、そこからみんなでオーストラリアに行き向こうの高校生の家にホームステイしました。その仲間と先日久しぶりに交歓会を持ちましたが、皆それぞれの分野で活躍しながらも変ってなくて楽しかったです。

Q:高校3年だと受験ですよね。

木戸:受験の間際でしたが、そのことはあまり考えずに、素粒子物理学で既に著名だったパノフスキーやダリッツ教授の話を聞きました。超一流の先生の前頭葉はこんなで(笑)、その大きさに圧倒されました。

Q:やはり高校時代の感化は大きいですか。東大では物理と化学と両方勉強する感じでしたか。

木戸:理学部化学科の物理化学専攻で、修士からは物性研究所でそこは物理が中心でした。
博士号はX線の結晶構造解析でもらいました。X線を使ってヘモグロビンのモデル錯体結晶の分子構造を決めたのです。サッチャー首相も最初X線の研究をしたのですが、テーマがつまらなかったのか、あっち(政治)のほうに行ったみたいですね。

Q:ヘモグロビンって血液中にある物質ですね。

木戸:ヘモグロビンのモデル化合物はすぐに酸化されるので空気にさらさないようにします。真空ライン中で合成して、(両手広げて)このくらいのベッセル(容器)にいれて、0.3ミリの結晶をマジック・ハンドでつまんだりしました。かなり低温の領域で実験するために新しい低温装置を制作し、ヒーターも極限的な、本当は危ない使い方をわざわざしたりもしました。連続測定なので徹夜の実験でした。でも、装置を作ったりものを作る楽しみというのをその時に実感しました。

授業で、時々高温超伝導のビデオを見せるのですが、セラミックの試料を作るのは乳鉢で試料を粉に砕き、それで焼き物を焼くみたいな感じです。とかく、学生はコンピュータや、できあがった理論を科学と考えがちですが、そういう自然現象そのものやプロセスの面白さみたいなものを感じ取ってくれて、感想文に「目からウロコが落ちた」と書いてくれた時にはうれしくなります。

Q:論文はどうなりましたか。

木戸:博士課程の2年のとき、ハワイの日米合同化学会で発表しました。似たことをロスの大学の人が精度の少し悪い装置で研究していました。そうなるとどっちが先に見つけたかの競争になります。そこでPhysical Chemistry Letter にすぐ投稿しました。ちょうどレフリーの一人が物性研究所の長倉三郎先生だったので「至急に」とお願いして直ぐに掲載になりました。競争になるとレフリーが投稿論文をストップしておいて、自国のほうを先に通したりすることもありますでしょう。ですから日本人がレフリーに入っているのはその意味で大切です。

Q:レターで先鞭をつけることが大切なのですね。理系の競争は厳しい。

木戸:勝ったから良かったですけれど、大学院に入るときは指導教授に競争の激しい領域でなくていいと言って入ったのです。でも結局そのテーマは激しい競争でした。

Q:理系は先生からテーマを授かることが多いのではないですか。

木戸:先生からもテーマを頂いてはいたのですがそれは放っておいて、忙しい先生でしたし、ドクターコースの時のテーマは修士卒業のとき自分で見つけていて、それはどうしてもやりたかったし、先生もそれでいいやと。

Q:国際的な権威あるジャーナルの論文になるのですから、すばらしい業績の博士論文ですね。その後はどんな研究をなさったのですか。

木戸:スピン相転移をもっと研究して、結晶に磁場をかけて分子構造と電子の異方性を実験的に決めることもやりました。これも新しい方法でした。分子構造の研究は主として化学ですが、分子軌道の計算をして精密構造解析を行うのでそうなると物理です。これは京都の国際磁気学会で発表し論文になりました。

Q:小学校の5年6年とお父様のお仕事の関係でアメリカに居たそうで、それで英語には違和感ないのですね。

木戸:年少の時にアメリカの教育を受けて良かったと思うのは、実地に体験することの良さを早くに学んだことです。情操教育というか、例えば中世のギルドを勉強する時、中世の靴屋に扮して実際に当時のこんなとんがったような靴を作ったり、パン屋も当時のパンを焼くのです。いくつか転校しましたが、コーネル大学(ニューヨーク州)の大学町では人種も多様で、国連の小型版で各国代表として発言させたり、プロデューサー役をやらせたりとか。日本の大学生にもディベートやスピーチをもっとやらせたいですね。

Q:入試は東大入試が中止された翌年の難関ですし、ドクター論文も手間取る人が多いのですが、すらすらとエリート街道を進まれました。それが最近は「気功」とか何か変なのにとりつかれたか?(笑)、とその辺のところをお聞きしたいです。

木戸:私はずっと同じことを研究してその道の専門家とか大家になるということには、あまり興味が湧かないんですね。既にわかっていることよりも、新しいことをやりたいタイプです。

Q:研究に関しては気が多いというか、目移りがするのでしょうか。

木戸:現在は人間に関心があるというか、純粋な理科系の範囲に限らないで、多少文科的研究方式というか、新しい発想というかをとりいれてみたい。理系だと朝から晩まで実験だけやって解析するみたいに思われますが。

Q:心理の田多先生は朝から夜遅くまでやってますよ(笑)。

木戸:要素還元論的でなく、という方が正確でしょうか。文科系的な事にも興味はありますが、哲学というより科学計測を通しての関心です。気功とか未知の現象に計測の先端的な手法を取り入れる面白さでしょうか。

Q:学院大学に勤める頃から、関心がそのような方向に向かれたのですか。

木戸:ちょうどそのころ国際学会でサンフランシスコに行き刺激を受けたのと、主人の友人でドイツ人の先生が瞑想に凝っていたりしたのも影響がありました。それと、大学の恩師で最初に研究の手ほどきを受けた東大の理学部長もされた朽津耕三先生の薫陶が大きいと思います。つまり、先生が言われたのは、

1.研究のテーマ選びは長い研究生活をかける一種の賭である。

2.研究の方法は時間と労力を注ぎさえすれば良いというものではなく、合理的に早く結果がでるに越したことはない。しかし、失敗の結果も重要な産物である。

3.研究は問題に対する答をみつけるだけではなく、むしろ問題を自分で作り出すことである。

4.研究成果は何らかの形で発表して、他に貢献するべきである。

そこで、自分の興味やこれからの可能性が広いという観点から、物性研究を平行して行いながら、徐々に生命情報の研究に移っていきました。

情報というとコンピュータと思う人が多いですが、情報の意味や本質は生体情報とか人間情報にみられる自律性、自己組織化、複雑性や柔軟性が重要だと思います。そういう方向で考えたいと思っています。例えば、最近はヒューマン・サイエンスとの関連から感性情報に対する工学的アプローチも盛んです。しかし、それを直接実証的にみる方法がほとんどないのが現状です。

私の研究室では例えば感性情報として音楽や色の効果をみます。例えば、モンゴルにホーミーというポリフォニーの歌があります。発声法が独特で、高周波成分が多いといわれていますが、リラックス効果が一番高いんです。そのためか、モンゴルでは子守り歌代わりにホーミーを聞かせるようです。色彩感覚に対する効果も、色の環境にいるだけで生体の状態が変わります。色によってリラックスしたり高揚したりします。

Q:どうしてリラックス効果があるとわかるのですか。測定の方法は?

木戸:単一矩形パルス法といって、皮膚のインピーダンス法の一種を使います。経絡(けいらく)のつぼの動的な電気伝導度を非常に高速(マイクロ秒オーダー)で測定するのです。本山博先生の見つけたこの方法は研究で使用されている例は多くないですが、私は有力な方法だと思います。それで測定すると血流や自律神経機能に関連したパラメータ変化からリラックス効果とか変化がわかります。また、サーモグラフィーで体表温度が上がるかどうかもみたりします。

Q:経絡って、物理研究室のこの人体模型ですね。鍼や灸などの治療でよく見かける図です。

木戸:経絡は東洋医学の体系ですが、それを測定点に使うとシステマティックな結果が得られます。経絡は情報の伝達経路として機能していることは経験的・臨床的に、わかっています。

Q:経絡の存在証明は?

木戸:経絡は構造物に裏づけられるわけではないですが、ツボの近くには神経や血管が多いという科研費による研究報告があります。それと、熱刺戟や電気刺戟が伝わるのは確かです。WHOは何年か前に経絡を認めました。西洋医学以外の体系は代替医療と言い、今アメリカではたいへん重視されるようになりました。ヒーリングで治療することもイギリスでは保健を認めています。またその中にspiritualという言葉を使おうというのが英米ですが、日本では異論があります。情報という面からみると東洋医学は面白いですよ。西洋医学は臓器ごとで分断されますでしょう。

Q:その経絡のつぼで電気の測定をして、イメージ想起の実験などをするのですか。

木戸:そうです。本学の弓道部は1日4時間稽古していますが、その全国優勝した学生さんに弓を持たずに弓を射る過程をイメージ想起してもらいました。また情報処理センターの桜井宏行さんはチェスの東北チャンピオンでした。彼に世界第3位の人との対戦を想起してもらいました。深い集中とイメージ想起を示す興味深いデータが得られました。そういう実験は本学で面白くて有能な人と出会えたからこそで、感謝しています。輪王寺で禅をやっていた櫛田浩平さんの生体変化も計測しました。

Q:気功はどういうものですか。気が物理的事象と精神現象との両方を指す概念であるのは、私も合気道をやっていて一応はわかりますが、、、

木戸:気功には大きく分けると内気功と外気功とがあります。内気功は座っている状態でも気を巡らす方法で自律訓練に近いと思ってよいでしょう。外気功では他人に気を及ぼして治療したり、リラックスさせたりします。

Q:あの投げたり、すっとばしたりするのは外気功ですね

木戸:それは武道気功とか硬気功と言います。日本でも中国でも気功師と呼ばれる人がいますが、自分で気を出すと言う人もいるし、アンテナになって宇宙空間のエネルギーを渡しているだけという言い方をする人もいます。それはイメージ的にはいろいろで構わないのです。気が何かということはまだわかっていませんが、私はその気功をやる時の生体の変化を計測します。それには先ほどお話した単一矩形パルス法の他に近赤外分光法で脳内酸素代謝を測定します。これは、私学の特色ある教育研究の申請が数年前に通って装置を買って頂きました。

Q:単一矩形パルス法は先生の研究方法ですが、それも先生のオリジナルですか。

木戸:最近はお医者さんなどがよく使われる方法です。酸化型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンの相対的時間変化がモニターできます。また、血流の変化がわかります。

Q:2つの方法の違いというか、特徴はどうですか。

木戸:単一矩形パルス法は経絡ごとに測定し、その測定結果は人体とともにメンタルなものを反映します。脳内酸素代謝は意識状態を反映するというか、例えば課題の性質、言語が関係するかどうかによって変るし、瞑想とか、時には体外離脱の状態も映します。

Q:気功の実験例を紹介頂けますか。

木戸:最近行った実験に遠隔効果の実験があります。遠く離れた東京から仙台で気功を受けると、敏感な被験者では体が動くし、お腹がカルデラのようにへこんで、本人は変性意識状態になるようです。そして、それは計測にあらわれます。

Q:そういう研究には原子核を研究していた研究者が転向してくるとか、いろいろな人が参入しているらしいですね。

木戸:原子核関係の人はランダム現象などの基礎があるので超心理学などに興味が向きますし、電気の人は柔軟ですからテレビのリモコンの延長として、遠隔操作も抵抗なく受け容れます。医者は実用的な面から入ってきます。シャーマン研究も入ってきます。

Q:専門科学のるつぼというか、人種多様で国連ですね。

木戸:その受け皿として10年前に人体科学会が、5年前に「生命情報科学会」という学会が結成されました。事務局が科学技術庁の放射線医学総合研究所(千葉)で、PETの開発者のひとりが現在の会長です。学術ジャーナルも年に2回発行しています。学会は非常に学際的で他の関連学会と共催することもあります。例えば、催眠学会と共催した時にはアメリカの催眠学会長を招待して催眠と痛みの話をきいたりしました。3,4年とかの時限付きですが、「多様計測による特殊生体機能に関する研究」という億単位のプロジェクトも発足しました。また、「新パラダイムの創成に向けて」という共同研究も行っています。

Q:活動の基盤となる学会ができたわけですね。でも、東大の頃の物理科学と最近の研究とのつながりがまだよく理解できないのですが、、、

木戸:正統科学の手法を用いて、未知の現象を測りたいということです。例えば、単一矩形パルス法の物理的な裏づけとしては皮膚の電気的等価回路をモデル化することで説明します。気功を研究するには、物理、化学、生理、心理、電気、人体、精神科学、哲学も必要になります。又、物理の場の理論から量子脳力学などを提唱している人もいます。だからいろいろなことに関心をもっていなければなりません。よく異質なものがクロスオーヴァーした所に独創が生まれるといわれますが、そこがまた面白いところです。

Q:研究は哲学的には心身問題でしょうが、心と身体の関係はどういうモデルというか理論的前提をお考えですか。

木戸:気の現象は複雑で、現段階では理論的前提を考えるよりも、虚心坦懐に実証的な計測結果を蓄積していく方が大事だと思っています。今のところ、気の本体を測っているのではないのです。人によって反応の仕方が違う、また心身相関や意識との関わり、その辺を主眼にみているうちに、遠隔効果などに現れる気の何かがわかるかもしれませんが、、、

Q:木戸先生のご研究は私のやっている心理学からすると、事象関連電位の研究となるでしょうが、そうした心理学の測定にはトートロジーがつきまといます。心理学の全部がトートロジーだとの批判もあるのですが、例えばこうです。リラックスしているとき電位が下がるとします。なぜリラックスしたかと言うと、電位が低いからと言う。これでは循環します。これはどうお考えですか。

木戸:似たような話として、人体のしくみで中枢が先かあるいは中枢は末梢の奴隷かという話がありますが、現在好んで考えられるように脳がコンピュータのように心身を全て支配し命令を出しているという考え方には疑問があります。全体を包含するようなシステムや場が明らかになったら、つまりもっと高い次元から現象を見渡せるようになったらそういう問題は自然と解決するのではないでしょうか。

Q:新しい測定法をみつけるがメインになるのですか。

木戸:それも一つの醍醐味です。そういう立場では今までの研究などで培ってきたことがすべて生きてきます。


(2000年12月24日記)

※ このページは、2001年3月刊行の『人間情報学研究 第6巻』に掲載された記事を元にしております(なお、インタビューをうけたご本人の希望により、一部、掲載されていない箇所があります)。
その後、略歴や所属等に変更がある場合がございます。


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