森に触れ、森から学び、森と生きる

 

東北学院大学 教養学部 地域構想学科(人と自然のかかわり領域)

平吹 喜彦 (ひらぶき よしひこ)

 

 

大きなスギの切り株の上で

 

 

 

◆ 答えがみつからない、難しい課題

  私たちの暮らしやいのち、そしてこれらの有機的な繋がりとしての社会は、自然環境という基盤の上に成り立っています。・・・・・ 人工的な事物や現象に囲まれて生活することの多い現代人は、この当たり前ともいえる「人と自然の基本原則」を忘れてしまいがちですが、例えば、地震や津波、地滑りといった災害の発生や被害が、地形や地質と密接に関係していることを伝える映像に、あるいは農作物の豊凶や衣服・家電製品の売れ行きが、気候に大きく左右されることを示すデータに、私たちはドキッとすることがあります。

さまざまな環境問題や飢餓、紛争が地球規模で生じ、深刻さを増している今、「人と自然のよりよいかかわり」を探求し、その成果を人類すべてに還元してゆく創造的挑戦が切望されています。

 

 

 

◆ みどりの王国を調べてみたい!

 私の専門は、植物生態学と環境教育です。「みどり」という言葉に象徴される植物は、いうまでもなく、クリーンな太陽エネルギーを用いて無機物から有機物を生産しうる特異な生物群であり、この過程で二酸化炭素を酸素に変換したり、水蒸気を大気中に放出させたり、あるいは天空や地中に向かって複雑な構造物を造り上げてゆきます。私たちヒトを含め、多様な進化を遂げた動物に食料やすみ場所、清浄な大気・水など、生命と生活の源を提供してくれる生命体として、植物はかけがえのない存在です。

 幼い頃から昆虫や植物の採集、魚釣り、登山に親しんできたこともあって、私は大学進学に際して、迷うことなく生態学、特に野外調査に立脚した研究手法を学ぶことのできる学科を希望しました。1980年代以降、私は宮城県の青葉山や栗駒山、福島県の駒止湿原や赤井谷地湿原、岩手県の自鏡山、神奈川県の丹沢山地、そしてアマゾンやカリマンタンといった熱帯地域で、原生的な森や湿地の保全に関わる基礎調査を行ってきました。調査の多くは国内外の研究者と共同で実施され、そして研究室の学生諸君の参加によって支えられてきました。栗駒山のブナ林では、個体識別された3100本あまりの樹木の成長や生死が20年間にわたって記録され続け、今では国内屈指の長期継続調査地となっています。

 

 

 

  

 

森に触れる: 五感を使って森とひとつに

 

 

 

◆ 自然と共存する知恵や技法に学ぶ

 モンスーンアジアの東端に位置し、地形・地質が複雑な日本列島は、もともと多様な森によって覆われていたと考えられています。そして、各地の遺跡の発掘、あるいは文化人類学や民俗植物学的な調査によって、私たちの祖先はこうした森の恵みを上手に利用し、森と共存しうる知恵や技法を蓄積してきたことが明らかになりつつあります。

ここ10年ほど、私の関心は、人と森が近接する里山や屋敷林、防潮林にも向けられ、こうした身近な森の価値を生物多様性や公益的機能という視点から評価したり、「地域固有の伝統的な暮らし」の実態を掘り起こす調査を実施してきました。一連の研究を通じて、原生的な森から学んだ「自然のしくみ」とは一味違った、「人と自然のよりよいかかわり」を構築するためのヒントがいくつも見つかっています。

 

 

  

 

森から学ぶ: 自然のしくみを調べる

 

 

 

◆「地域」で始める、「世界」に繋がる

 これまでの野外調査から得た経験や知識、ビジュアルな情報を社会に還元するための活動の一つが、「地域」と「持続可能な社会」をキーワードとする環境教育の実践です。行政やNPO、学生の皆さん、学校の先生、異分野の研究者らと協働で、児童や市民の皆さんを対象とした学習プログラムやアクティビティ、教材の開発と公開、あるいは野外での自然体験活動を積極的に展開しています。

 2005年に新設された地域構想学科には、多様な専門分野の教員が集い、各種の文献や資料、環境計測機器、地理情報システム(GIS)といった最新のITツールが配備されるなど、「人と自然のよりよいかかわり」を創造するには打ってつけの環境が準備されています。

人と自然を愛し、努力を惜しまない学生諸君とともに、「人と自然が共存する地域づくり」に向けたさまざまな取り組みを世界に発信したい!と、決意を新たにしているところです。

 

 

 

森と生きる: 里地・里山の伝統的な暮らし

 

平吹 喜彦
東北学院大学 教養学部 地域構想学科
981-3193 仙台市泉区天神沢2丁目1-1
TelFax: 022-773-3706
E-mail: yhira@izcc.tohoku-gakuin.ac.jp
URL: http://www.nature-voice.net/

 

この文章は、『季刊 教養学部』(東北学院大学教養学部広報委員会、2005)に掲載された小文をマイナーチェンジしたものです。